「先生困りました。この子が受験勉強やめると言いだしました」
母親はひどく狼狽していました。
6年生の11月のことですから無理もありません。
そして、彼はトップ校である東海中学を目指して4年生から3年間頑張ってきた子です。
成績もトップクラスでこの時点でも、合格は間違いないという模試による判定が出ていました。
話を聞いてみると、今から部活(バスケ)を始めたいそうです。
彼が言うには、学校で一番仲の良い友達が部活(バスケ)を始めて、その子とどうしても一緒にやりたいというのです。
親としては、受験勉強の追い込みに入った大切な時期なので、
「東海中学に合格し、入学してからやればいい」
と何度も言い聞かせたそうである。
ところが、その仲の良い友達が公立中学校に進学なので、入学後では意味がないと言う。
母親と言い争いになり、結局、塾をやめたいと言い出してしまったらしい。
「バスケ部に入ってもいいよ。」
と私が言うとお二人ともびっくりして目を丸くしていました。
あまりにも意外な私の答えに声も出ない様子でした。
その子が予想していたのは、私に「絶対にダメだ」ときつく叱られると思っていたらしく、ずっと下を向いていたそうである。
あまりにも意外な答えにじっと私を見ていました。
「先生、東海中学に落ちたらどうするのですか」
親としての当然のリアクションです。
その子にとっても予想通りの母親のセリフです。
「この子は全て分かっているはずです。この時期に部活を始めることがどういうことかは。
それでも、やりたいのですから許してやりましょう。」
「ただ、一緒に3年間見守って、応援してきた人たちにさらに心配を増やすわけですから、
ひとつ条件を出します。
それは、今後のテストの合格判定で合格確率70%を下回った時点で即、部活をやめるということです。
下回らない限り、部活(バスケ)をやり続けることを認めてやってください。」
切羽詰まった場面で、子供の予想通りの答えを出しても、全く心は動きません。
そういう時こそ、冷静になって考えて、予想外の提案をしてやるのです。
必ず、心が動くはずです。
その後、彼は成績を下げるどころか、逆にさらに上昇させて、無事、東海中学に進学しました。