死にかけたことがある。
それは、二十年前ぐらいのことだ。
久しぶりに、高山市の古い街並みを散策したいと思い、国道を北上していた。
途中で本屋に立ち寄った。
買い物を済ませて、さあ高山に向かおうとしたが、国道の車の量が多く、そして流れも良すぎて、なかなか車の列に入れなかった。
ふと流れが途切れたので、アクセルを踏み込もうとしたら、それを阻むようにスピードをあげた車がいた。
意地悪だなあ。
その車が目前を横切る時、ドライバーはこちらに向かって、うすら笑いを浮かべていた。
三台ぐらい後の車が親切で、車列にようやく加わることができた。
しばらく走って、嫌な気分も失せたころ、異常なことに気付いた。
前方から観光バスが煙を出しながら、蛇行して向かってくるのである。
バスは前が大破しており、前輪が片方は無かった。
事故だ。正面衝突だ。
動かなくなった。バスで道が塞がれて、車列はストップした。
何か手伝えることがあればと思って、何人かの人と一緒に事故現場に行ってみた。
左への急カーブの先だった。
普通乗用車が半分千切れて、残骸があたり一面を埋め尽くしていた。
気の毒にドライバーはフロントガラスとシートの間で潰れていた。
さっきのひとだ。
車の色も間違いない。
即死だった。
あとから聞いた事故原因は、バスの運転手の居眠りによるセンターラインオーバー。
あの意地悪なドライバーがもし、車列に入れてくれていたら、今ここで潰れていたのは僕だった。