「来週からここに出社しなくていいから、おめでとう。」
「ありがとうございます。私なんかでいいのでしょうか。」
心にもないことを社交辞令として言ってみた。
上司もそれを察して、ニヤニヤしながら、
「うちの会社としては、異例の大抜擢。入社4か月で、最年少の校責任者になったのだからね。当然、あの研修で脱落した者からの妬みは少なからず形となって、降りかかってくることは覚悟したほうがいい。」
それがどんなものかは、当時の私には想像できなかった。
しかし、あとから思い知らされることになる。
他のメンバーも3名伝達された。
2名が年上、1名が一つ年下の部下だった。
その中には、研修で最後まで残った者がいた。
ちょっと気になったが、それは3月からの授業開始から考えればよいこと。
まずは、1か月間、8回の入会説明会を成功させて、生徒を確保しなければならない。
数日後、入会説明会の初日がやってきた。
さすがに初日の一発目からは任せてもらえそうにない。
心配なので、本部長が初日の午前午後の2回は担当するということだ。
説明会の予約は、午前、午後共に満席である。
「説明会は、俺が担当するから。ただ冒頭に君が責任者だと紹介するので、何かコメントを用意しておくように。50名ぐらいの前でたぶん頭が真っ白になると思うけど。」
多分、大丈夫だと思った。
小学生のころから、全校生徒の前などで話をするような機会が多かったことを感謝した。
「君は、極端に童顔だからなあ。29歳になったのか。でも、見た目は新卒だなあ。」
「きっと、親たちは若い責任者に不安をもつだろうな。しょうがないな。」
この人は本当にプレッシャーをかけるのが上手い。
むしろ、私を動揺させて喜んでいるどS上司にちがいないと思った。
入会説明会のシナリオは、重厚なものだった。
2時間30分の持ち時間で、参加者を飽きさせないようなアレンジを自分で考えなければならない。
この内容如何が入会テストの申込み数に直結するのである。
定刻になった。
本部長と一緒に、50名の参加者の前に立った。
大丈夫、全員の顔はよく見える。
本部長から紹介があった。
大切な第一声。
「あ、みなさん、今こう考えましたね。
ご自分の大切な子供をこんな若造にまかせて大丈夫かなあ。
◯◯塾の責任者の方が頼りになりそうだって。」
どっと笑いが起こった。
「若さは武器です。反抗期のお子さんの気持ちに寄り添える強みがありますから。
是非、お任せください。でも、本当は30近いですよ。」
「えーーー。」
こんなスタートだった。
その後、入会説明会を終えた本部長が、
「予定を変更して、俺はもう一つの新規校の説明会をやってくるから。あとは君にまかせた。俺がやったようにそのままやるだけだから大丈夫だろう。」
「えーーーーーーー。」
頭が真っ白になった。