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「Last family trip」最後の家族旅行

26年前の話です。

父が末期癌で胃の全摘手術を受けた。

体力の回復を待って、最後の家族旅行に行った。

当時、転職したばかりで、精神的にも、金銭的にも全く余裕が無かった。

しかし、それまで,親孝行なんて全くできていなかった。

だから、できる限り、家族にとってのいい思い出をつくろうと思っていた。

「富士山がみたい。」

親父の希望だった。

早速、旅館を手配した。

「うぶや」さんという評判の良いところを予約した。

「うぶや」さんには、容態が急変して迷惑をかけてはいけないと思い、

事前に親父の状態を伝えて、了承を得た。

当日、旅館に到着して、そのロケーションの素晴らしさに驚いた。

何よりも旅館の心遣いに感謝した。

部屋は料金以上の素晴らしい眺めのところだった。

湖の向こうに霊峰富士の荘厳な姿があった。

夕食は特に頼んで無かったのに、手術を受けて、流動食しか食べられない親父用のものが用意されていた。

みんなとても喜んでいた。

明くる日の早朝、部屋から湖面に鮮明に映る逆さ富士が見ることができた。

嬉しそうな親父は何枚も写真を撮っていた。

女将さんによると、年に1、2度しかない眺めだそうだ。

すべてに感謝した。

親父は三か月後に亡くなった。

逆さ富士の写真は最高の思い出とともに実家の居間に飾られた。

「うぶや」さん、本当にありがとうございました。

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