今、彼はどんな気持ちで合格短冊を眺めているのだろうか。
3月になると、2次募集の合格発表も終わり、受験生は自分の進学先がほぼ決定する。
塾生たちには、入試がすべて終わり、追加合格も含めて、合格発表が完全に終わるまでは、友人の合否確認は厳禁にしている。
最後まで、入試に集中させるために。
だからこそ、すべての合格発表が完了すると堰を切ったように、次々と塾生たちはやってくる。
校舎内に貼られる合格短冊を確認するために。
その中で、ひとりだけ30分以上も何もしゃべらずじっと自分の合格短冊を見ている。
受験前の出願時に、彼は最後まで迷っていた。
第1志望校と第2志望校の試験日が同日だから。
合格偏差値が10ポイントほど違うため、毎年多くの受験生が出願時に頭をかかえる。
彼は、両方に出願し、試験当日にどちらの会場に行くのか当日決めることにした。
私はこの出願の仕方はあまりお勧めしない。
結局、彼は第2志望校を受験し、見事に合格した。
自分の合格短冊を見上げながら、
「先生、僕がもし、第1志望校の◯◯中学を受けていたら合格していたかなあ。」
「それは誰にもわからないことだよ。」
「後悔しているのか?」
「ぼくにもわからない。合格したのはうれしいけど…。でも…。」
「その答えは、6年後の卒業の時に出るよ。でもきっと、その時にはその心の中のモヤモヤしたものもすっかり忘れているよ。俺が保証する。」
去っていく彼のうしろ姿が今でも忘れられない。